メメント・モリ

べったー再掲からの微修正。Q(3サイド)で第一迷宮スタート付近で美鶴先輩がペルソナ召喚について尋ねるイベント後の話。(ゲーム内の花村の台詞引用&3映画の設定少し(というか台詞)あり)

「……さっきは、ごめん」
「え?」
 ごーこんきっさから戻ってきた俺と有里は、仲間たちが休憩を取っている間に空き教室で机を挟み、ミーティングをしていた。これから長丁場になるであろう戦いに備えて、定期的に行ったほうがいいと俺から提案したのだった。
 仲間達の武器やサブペルソナの割り振り、編成などを話し合い、調整していかなければならない。そんな話をしていた折に突然有里が謝ってきた。
「ど、どうしたんだ?急に……」
 謝られることがあっただろうかと俺は頭にハテナマークを浮かべる。相対する有里は地図を眺めていた視線を俺に向けたかと思うと、その瞳をおもむろに伏せた。
「何か、気に障ったようだったから。花村が」
「……その話か」
 迷宮から戻る前の話をしているのだろう。有里もそれとなく気にしていてくれたようだ。
 美鶴さんが切り出したペルソナの召喚方法から始まった話だったが、陽介に堪えたようで、あの後明らかに様子がおかしい彼を休憩にかこつけ連れ出し、話を聞いた。
『……ちっと考えてただけだよ。なんかのために命懸けるってのは、そんな偉いのかって。俺は、大事な人……亡くしてるからさ。その人が生きられなかった分まで生きたいって思う……。信じるもののために戦うけど、死ぬつもりはねーんだ、全然。』
 悲痛な表情でぽつぽつと言葉を紡ぐ陽介の姿が脳裏に浮かぶ。陽介の気持ちは陽介だけのものだ。俺には陽介の気持ちが痛いほど分かる、とは簡単には言えない。でもーー
「有里が謝ることはないよ。……陽介にも言ったけれど、桐条さんが言ったようにお互いそれぞれの理由があって戦ってる。ただそれだけだ、優劣なんてない」
 俺がそう伝えると湊は伏せた目を上げ、再び視線を交わした。そこには未だ遠慮と申し訳なさそうな感情が混ざっているようにも見えた。
「『死ぬって、そんなに怖いこと?』」
「……え?」
 無表情に告げられた有里の言葉に、俺は思わず聞き返す。
「以前の僕だったらそう答えていたかもしれない……と思って」
「それは、どういう……」
 狼狽えている俺をよそに、有里は腰に下げたホルスターから召喚器を取り出し、机の上にゴトリと置いた。
窓から降り注ぐ陽の光でそれは銀色の光を静かに放っている。有里はそれを見つめながら言葉を続けた。
「ペルソナを初めて召喚したのは月光館学園に転入してすぐの頃だった。その時のことは正直ぼんやりとしか覚えていないんだけど、……引き金を引くことに躊躇いはなかった」
「……」
「どうでもよかったんだ、本当に。自分が死ぬかもしれないのにどこか他人事だった」
「でも、今は違うんだろう?」
 そう問うと有里は小さく頷いた。
「そうか」
 ホッと安堵のため息が出た。詳しくは聞かないが仲間達との出会いが彼を少しずつ変えていったのだろう。
有里が机の上に置かれた召喚器を黙ってそっと撫でる。その手つきにはどこか愛おしさすら感じられた。
「……なぁ有里。その召喚器、触らせてもらってもいいか」
 いたずらにこんなことを頼むのは気を害するかもしれないと思いながら尋ねてみた。すると有里は一瞬瞠目したものの
「いいけど……」
 と、ホルスターにしまおうとした召喚器を俺の手に渡す。ずしりとした重さと金属特有の冷たさが掌に伝わってくる。
「重いな……」
俺はグリップを握りゆっくりと右手で持ち上げ、引き金に指をかけた。そして目を閉じ自分のこめかみに当ててみる。
弾は出ないと分かっていても銃口が向いていると思うとやはり恐ろしい。もしこの召喚器が玩具のような軽さや稚拙な造りならば、そうは思わないだろうし、簡単に引き金を引くことができる。絶対に死なないと分かっているから。
引き金を引き己の心の内を曝け出し、戦いに身を投じる有里たちの覚悟の一端を垣間見ることが出来た。だがそれもほんの少しだ。
閉じていた目を開け、俺はこめかみから召喚器を離し再び机の上に手を下ろす。
 一連の流れを見ていた有里がポツリと零した。
「引き金は誰の心にもある。それが僕と君とで形が違うだけ」
「……ああ、そうだな」
 俺は引き金から指を離し、グリップを掴んだまま有里に召喚器を差し出した。

――― end ―――