rain and his and her warmth. <SHE side>

 貴方の優しい手に触れられたら、私は何も言えなくなる。

 天気予報は晴れのち曇り。
家を出る時には曇ってたけれど、やっぱり傘持ってくれば良かったかな。そんなことを思いながら小走りで彼の元へ向かった。
彼の家に着いた時にはかなりびしょ濡れになっていた。
インターフォンを押してドアが開くのを待った。彼は私の姿を見てなんて言うだろう。
他人事のように第一声を色々予想しているうちにドアノブが動いた。
「ケントさん、こんにちは」
ドアを開けた彼はビックリしたみたいだったけど、それも一瞬のうちで。いつもの調子で口を開いた。
「また随分濡れているな。傘はどうしたんだ?天気予報を見てなかったのか」
「見ては来たんですけど、少しの距離だからいいかなって…でもこんなに降られるなんて思わなくて」
「降水確率くらいは確認してからそのセリフを言ったらどうだ?…とにかく、そのままだと風邪をひく。タオルを持ってくるから少し待て」
彼はそう言ってくるりと踵を返し、廊下の奥へ歩いて行った。と思ったらすぐにバスタオルと小さめのタオルを持って戻ってきた。抱えてるタオルが妙に枚数が多くて私は少し笑ってしまった。
「……?何を笑っている?」
彼はそう言いながら一枚を玄関のマットに敷いてから、靴を脱いでそこに立つように言った。言われるままにしていたら今度はバスタオルを頭からベールのようにかけられて髪を拭いてくれた。
ちょっと力が強くて痛かったけれど、真剣な彼の顔を見ていたら心に暖かいものが広がっていった。
「……こんなものだろう。寒くはないか?」
「ありがとうございま…っくしゅん!」
少し寒かったが大丈夫だと伝えようとしたがくしゃみでかき消えてしまった。
「…拭いたばかりだが、シャワーで暖まるか?だが服がないな……君さえよければ私の服を貸そう。君の服はここに居る間に多少は乾くだろう」
なんだか悪い気もしたけれど、私は甘えることにした。
「…………」
シャワーを浴びて、脱衣所に上がると一枚の深緑色のシャツがたたんで置いてあった。広げてみるとやはり大きい。
するりと腕を通せば袖は余り、肩はずり落ちそうになっている。
「……大きいなぁ」
裾は長いためにワンピースのようになっている。そういえば下は…と思い周りを見てみたがシャツ以外は置いてなさそうだった。
「えっと……」
おそらく他意はない。私の身長を考えてシャツ一枚にしたのだろう。
少し(いやかなり)恥ずかしいけれど、これしかないから何も着ていないよりはいいかと脱衣所を出た。
「ケントさん、シャワーありがとうございました」
いつもの部屋に入ると、彼は本棚の前で立ったまま本を読んでいた。
「ああ、少しはあたたまっーーーー」
ふっ、と本から視線を外し顔を上げた彼の顔と動きが止まったように見えた。それこそ石のように。
「、っ、君」
「やっぱりケントさんの服は大きいですね」
こんなにブカブカです、と袖をひらひらしてみせると、彼は固まった表情のままゆっくり近づきーーーー。
「………っ!」
「きゃっ…?!」
視界が傾いで一瞬何が起きたのか分からずに思わず目を瞑った。背中に柔らかい衝撃を感じ、にゆっくりと目を開けると彼が私を見下ろしていた。その時ソファに押し倒されたのだと気づいた。余裕がない必死な顔で見つめられて、私の胸が更に強く脈打った。
「あ、あの、ケントさん……私……」
彼は素早く手袋を外して眼鏡を放り投げた。眼鏡は乾いた音を立てて落ち、その音がひどく大きく聴こえたのは私だけだろうか。
彼の長い指が私の髪に触れている。触れられたところから熱をもって溶けていくような錯覚を覚えた。彼の鼓動がシャツ1枚越しに伝わってきた。
脇の下に腕を差し込まれた形で強く抱きしめられて私は動けなくなった。少し掠れたような声で彼は
「君はどうしてそう無防備なんだ?いや、そもそも私が何の考えもなしに自分のシャツを貸したことが間違いだったのかもしれない。君は笑うかもしれないが、私にも分からないんだーーーー君をこんなに愛おしいと思うのに、めちゃくちゃにしたくなる。…すまない」
そう言い、腕の力を緩めたかと思えば今度は唇を奪われた。貪るように激しいそれは彼のなかの獣を感じさせた。唇からその獣が入って体の中から蹂躙されるような。
「……っふ……」
次第に口腔を弄るような動きも緩慢になり、朦朧とした意識だけが周りを包んだ。
全てを委ねてしまおうか…
彼の背中に腕を伸ばそうとした刹那、彼の唇が離れ顎から首筋へと移動した。何故だか噛みつかれる、と思った。私は少し身を縮こませた。するとそんな小さな反応に彼は射止めるような視線のままで言った。
「すまない、自制がきかなくなっているのは承知だ。もし本気で嫌ならひっぱたいても突き飛ばしてくれても構わない。だが君はさっきキスを拒まなかった。…それを了承だと、私は受けとった」
ずるい、そんなの拒むわけがないって分かっているくせに。
もっと触れてほしい、その手で指で体で貴方の全てで。
「……そんなこと、できるわけないじゃないですか」
「……っ、」
「謝らないでください。少し吃驚したけれど、私、嬉しいーー」
言い終わらないうちにまた唇を奪われた。

珍しく、いつも以上に余裕のないその人が、ちょっと可愛いと思ったことは内緒にしておこう。

―――end.―――