indigo blue

SSS直前くらい。とある方のアオトグ絵を見てカッとなって見切り発車で書いた。SSSのトグサはエロい(断言)

 隊を任されるずっと前から、誰かに見守られているような気がしていた。
それは陰で支えてくれる家族でもなく、言葉にはしないけれど不器用な優しさでサポートしてくれていたいかつい相棒でもなく、ネットのどこかにいるであろう姿形も見えない上司でもなく。
投げ捨てた青の放物線と焦燥感に似た、どこか自分に似た存在に。
記憶に深く刻まれているのは左利きのキャッチャーミットとそれから…

◆

 薄暗いダイバールームでトグサは1人黙々と電子資料と格闘していた。新しく雇った新人達の報告書や、荒巻から手渡された政府要人の警護の概要と手筈書の確認など。
事務業務などは自分がやらずともオペレーターや他のメンバーに任せてもよかったのだが、自らやることで覚えることもあるだろうとあえて引き受けている。
しかし夜も更けて少々疲労が出てきたのも否めない。スコープを上げ眉間を指で揉みほぐす。ひとしきり揉んだあとに大きく伸びをして、フゥと息を吐いた。
「……コーヒーでも飲むか」
そう独りごちて席を立ち、給湯室へ向かう。
給湯室に着き、コップをセットしコーヒーメーカーのボタンを押すと、ピッと高い音を出し丁度良い温度でコーヒーが注がれていく。
黒い液体をぼんやりと眺めていたら、猛烈な眠気に襲われトグサは目を顰めた。
「ッ……」
 ぐら、と身体が傾ぎそうになるのをなんとかシンクの端を掴んで耐えた。しかし視界の揺らぎは収まることはなく、トグサは座り込む。
義体の不調かとも思ったが、不快感はない。あるのはフワフワとした浮遊感と抗い難い睡魔。
徐々にぼやけていく意識の中、トグサは誰も居ないはずの視界の端に青いシルエットを見た気がした。それを確認する間もなく目の前がブラックアウトした。

 ハッと目を覚ましたトグサの視界にまず映ったのは、無限に広がる真っ白な空間だった。
上も下も分からないが上昇や落下しているような感覚はない。空間の中は暑くも寒くもなかった。
 うなじに手をやればどこからか線でつながれているようだった。気味悪さを感じ引き抜こうとしたが何故か引き抜くことができない。線は空中から生えており、その先は白く霞んでいて見えなかった。
試しに下にぐい、と引っ張ってみても伸びはするが弛む様子もない。ただ、歩いてみるとトグサの足取りに合わせて線はうなじから抜けることなくついてきていた。
奇妙な状況で戸惑いはあったが狼狽えても仕方がないので、トグサは外部に通信を試みた。しばらくどこかにアクセスをしている様子だったが無情にも電脳内のモニターに表示されたのは「ERROR」という赤い文字だけだった。
ウイルスにでも引っかかったかと思ったトグサははた、と固まった。
そもそもどうやってここに来たのか。いや、招かれたのか?
思い出そうとすると映像がフェードアウトするように消えていく。
しかしもしこれがハッキングの類だったとしたら何らかの不調が体に出てもおかしくはない。
「遅効性ウイルスか?それにしたって…」
『違いますよ』
 思わず声に出した独り言にどこからともなく返事が返ってきた。
突然の通信に驚いたトグサは、警戒を強め素早い動作で腰に下げた愛用のマテバを構えようとした。
が、その手は空を切った。あるべきものがそこに無かったのだ。
「?!」
 丸腰であるということに気づいて流石に動揺しているトグサの様子に、声の主は苦笑いを含んだ様子で続けた。
『ここに武器はありません。…安心してください、僕は貴方に危害は加えない』
 安心しろと言われてそれを鵜呑みにするほどトグサは馬鹿ではない。警戒を解かないまま、姿を見せない声の主に問う。
「……お前は誰だ?俺をこんな場所に閉じこめて何が目的だ」
 ややあって声の主からの返事が返ってくる。
『目的、か……強いて言うなら貴方に会いたかった。という答えじゃ納得はしてくれそうにありませんね』
 少し話をしたかったんです、とぽそりと付け足した。
少年のようなしかし達観したような声の主にトグサは思い当たりがなかった。トグサの記憶の引き出しにある少年、といえば笑い男事件の再捜査で授産施設の潜入捜査中に出会った彼くらいだ。だがトグサは彼の声を聞いたことはなかった。よもやと思ったがそれは早計だと判断した。
「お前は俺を知っているようだが、俺は知らない。……どこかで、会ったか?」
『イエス、でもノー……かな』
「随分と曖昧な返事だ」
『貴方のその記憶だって、紛い物かもしれませんよ』
 記憶の端を覗かれたか。トグサは更に問いかけた。
「俺の記憶が紛い物というなら姿を見せたらどうなんだ?」
 虚空に語りかける。しかし返事はなく、静寂がトグサを包んだ。
 ふいに背後からキィ、と何かが軋むような音がしてトグサは振り向き、身構える。さて鬼が出るか蛇が出るか――――。
ゆっくりと霧が晴れるように奥から出てきたのは1台の電動車椅子だった。それは授産施設で彼が乗っていた同型のものだ。座面には左利きのキャッチャーミットが鎮座している。
 虚をつかれたが、反面、なんとなく『そう』ではないかと薄々感じていた。この空間だってあの時から覗かれているような、見守られているようなそんな感覚と似ていたから。
「俺は車椅子と知り合いになった覚えはないよ、……アオイ君」
 そう呼ぶとノイズと同時に車椅子の横に黒髪の少年が現れた。着ている服も、姿形も、授産施設の時と何ひとつ変わっていなかった。ただ違うことといえば、
「君はそんな声をしていたんだな」
 あの時は言葉ひとつ交わさなかった。否、交わせなかった。アオイは少し長めの前髪の奥から視線をトグサに送る。
「僕は貴方に謝りたいと思っていました……あの日から」
 アオイにそう言われ、トグサは苦笑した。
「そうだな。君には騙されるし、捜査中に体に穴開けられて死にかけるし、散々だったよ……でも」
トグサは言葉を切り、アオイに近づく。アオイもトグサから視線を外さなかった。コツッ、と靴音が鳴った気がした。
「俺は俺の仕事を通しただけだ。友人の――山口の遺言だったから。絶対に諦めたくなかった。……君だってそうだっただろ?」
「……イエス。僕はやり通すと決めました。とは言え、最後は託す形になってしまいましたが」
 アオイは少しだけ目を伏せ、まるで置いていかれた迷子のような表情を見せた。
「……ネットの海を漂う中で貴方のことをずっと見ていました。草薙さんがいなくなったこの2年、貴方は」
「やめてくれ、後悔はしてないんだ」
 アオイの言葉を遮り、トグサもまた脳裏に残る紫を思い出していた。
 荒巻の下でなんとか9課を存続させようとこの2年、奮闘してきた。もちろん少佐と同じ働きができるなんて到底無理な話だったし、荒巻だって同じ事を考えていただろう。
それでも任された以上はやらなければならないという責任感はあった。イシカワ達も協力を惜しまなかった。家族だってそうだ。仕事のことも、義体化することも受け入れてくれた。
しかしバトーとだけはこの2年間で深い溝ができてしまったのも事実だ。
「……僕が」
「え?」
「僕がいるじゃないですか。……トグサさん」
 告白めいたことを口に出したアオイにトン、と左肩を押される。そんなに強い力ではなかったのに体は容易に後ろに倒れた。体勢を整えようとしたが間に合わず、衝撃に身構えたが痛みは訪れることなく、トグサは宙に浮いたような形で座っていた。
 思わずつぶってしまった目を開くとアオイが至近距離まで近づいて肩に手を乗せていた。いつの間に着ていたはずのジャケットが床(と思われるもの)に落ちていた。
 肩に乗せられていたアオイの手がズブ、という音が聞こえてきそうなくらいにトグサの体を侵食している。体を捩って避けようとするが動けない。
「アオイ君……ッなんの、真似……」
「義体化率が高くなってしまったせいで受け入れやすくなってますね。あと呼び捨てで構いませんよ」
「そう、じゃな……、い」
トグサの体にゾクゾクした感覚が走った。嫌悪感や不快感ではない、むしろ――。
「気持ちいいですか?」
 アオイはスルリ、と手を埋れさせたまま全身を撫でてくる。撫でられているだけなのに、感覚はどんどん研ぎ澄まされ快感がつもっていく。
「……っあ、……は……」
「疲れが溜まっているからこんな軽度の電脳薬でも飛んでしまうんですよ」
「そんな、こと……して……」
「大丈夫ですよ、〈ここ〉から出たら貴方は一切を忘れている。僕に会ったことも、全部。……言ったでしょう?僕が会いたかったと」
 アオイはトグサの全身をかきまわしていた手を抜き、トグサの膝の上に乗り全身を委ねた。トグサはギョッとするが相変わらず体は動かずアオイにされるがままだ。
「う……アオイ、やめ、るん、だ……!」
 抗い難い快楽の中で必死にトグサは抵抗するが、制止も聞かずアオイは融合するようにどんどんトグサの中に侵入していく。
「快楽でもなんでもいい、今は全部忘れて……』
 遂にアオイの姿も見えなくなり肩で息をするトグサだけが空間に残った。
「っ、アオイ……っあ!」
 脳を焼かれかけたような感覚がトグサを襲い、見えない椅子の上で体が弓なりにしなる。快楽の塊をぶつけられてトグサはそのまま意識を失った。

◆

 ブーン、という音が聞こえてトグサは目を覚ました。
ダイバールームで書類確認中に眠りこけてしまったらしい。懐かしい人間と会ったような夢を見た気がしたが内容までは覚えていなかった。
うつ伏せになっていたせいか腰が痛い。義体化してもこういう感覚や痛みは残るんだなとしみじみと実感した。
寝ている間に脱いだのか床に落ちているジャケットを拾い、大きく伸びをして、フゥと息を吐く。
「……コーヒーでも飲むか」
そう独りごちて席を立ち、給湯室へ向かった。